「MAGIC11」


 時代から置き去りにされた地。
 エルファシルに来た者なら誰もが同じ印象を持つだろう。
 変化についていけず過去の栄光にすがって生きている。
 私服に着替え、街に出たロイエンタールは哀れな土地に辟易し、この地に降りたことを後悔した。
 古びた街 生気の無い民衆。
 何よりもロイエンタールをうんざりさせたのはあちこちに張られたポスターであった。
 本屋の店頭に並べられている書物であった。
 テレビから流れてくる放送であった。
 街全体が、否この星全体が過去に絡め取られている。
 寂れ色あせたポスターに映っているのは魔術師。
 民主主義の精神を忘れるな と横にエルファシルのスローガンが書かれている。
 本屋に積まれている本は魔術師関連のものばかり。
 電気屋のテレビから流れてくるのは死人の功績を称える番組。
 ヤンウェンリー
 過去にこの星の住民全てを救った英雄。
 何の変哲も無いエルファシルがその存在により一躍有名になった
 住民は熱狂した。
 彼が有名になった最初の原因はエルファシルにある。
 この地が無ければヤンウェンリーの栄光は始まらなかった。
 住民は勘違いしたのだ。
 ヤンウェンリーはこの地と深いつながりがある。
 彼を精神的に支えるのはエルファシルの役目であり助けてもらった恩返しなのだと。
 何故そう言う民衆全体が精神状態に陥ったのか。
 それはヤンウェンリーの尋常為らぬ戦果にあった。
 奇跡を起こし続け同盟の要となった。
 エルファシルは遠い辺境の星だ。
 自慢になるものは何も無い。
 だからここ出身の者は声高らかに言うのだ。
「俺かい、俺はエルファシルの生まれだよ、そう、あのエルファシルさ。ミラクルヤンが助けてくれた星さ。あの時から俺達には分かっていたね、まだひよっこだったヤン提督がどれ程すごい人間かってことを。俺達はヤン提督を信じたからこそ助かったんだ、宇宙広しと言えどヤン提督の事を一番分かっているのは俺達エルファシルの人間だ」
 正確に言えば真実は違う。
 彼等はヤンを信じて従ったのでは無くそれしか方法が無かったから仕方なく付いていったのだ。
 ヤンが出世街道を歩いていた時、エルファシルの住民にとって彼は自慢あった。
 まるでこの地から出た英雄の様に語った。
「ヤン提督は宇宙船暮らしで故郷が無いだろう。だからこのここを故郷と思っているんだ。だって彼はエルファシルを救ってくれたのだから」
 エルファシル生まれというのがステータスであった。
 英雄縁の地を見ようと観光客も多く訪れた。
 エルファシルは独自にヤンウェンリー関連の書籍を作り番組を放送し盛り上げる。
 ヤンウェンリーにとって心の故郷。エルファシルを