「MAGIC2」



 

「お帰りなさいませ、総大主教」
シャトルで控えていた配下は第一声を上げその後言葉に為
らず声を詰まらせた。
「ただいま、皆久しぶりだね」
総大主教は神々しいまでの微笑みで彼等の苦労を労う。
「お待ちしておりました、一日千秋の思いで」
地球教徒の黒いケーブを震わせ、彼等は頭を垂れる。
「皆よくやってくれた。感謝するよ」
若い声、総大主教は白いケーブをまとっている。
白は高貴の証。
グランビジョップ以外は身につけることを許されない。
「もったいないお言葉、いたみいります」
「その一言で全てが報われます」
シャトルにいる10名の地球教徒は涙を流した。
 もちろん歓喜の雫を。
「皆のおかげで同盟のヤンウェンリーは死んだ、これで全て
が終わる」
「新たな時代が始まるのですね」
総大主教はゆっくりと頷く。
「そう、一つの時代が終わり新しい歴史が始まった」
 総大主教は満足げに頷くと椅子の背もたれに体を預ける。
「ああ、働きすぎて疲れたよ、この13年間休み無しだった
からね、一生分働いた気分だ」
「お疲れ様でございます、グランビジョップ」
一人が恭しくカップを差し出す。
「これは嬉しい、13年経っても私の好みは覚えていてくれ
たんだ」
総大主教はそれを受け取ると香を嗅いで頬を緩ませた。
「もちろんでございます。我等が敬愛する総大主教の好みを
忘れる筈ございません」
老齢といってもよい地球教徒が涙声で答える。
 孫ほどに若い主君に再び仕えることが出来る喜びに身を震
わせている。
「ありがとう、みんな、今後はもう皆から離れることは無い
よ。13年も働いたからね、これから先は隠居を決め込むつ
もりだ」
「どこまでもお供いたします、グランビジョップ」
全員が平伏する中、総大主教はカップの中の液体を美味し
そうに飲み干す。
茶色の、大分ブランデーの効いた好物の飲み物を。


 魔術師の死後、帝国は皇帝の統治の下堅実な体制に移行し
ていく。
旧同盟はユリアンミンツを指揮官とし、民主主義の存続を
実現していく。


全ては計画通りであった。
何も問題は無い。
水が流れ河になり海になるように、宇宙は流れに身を任せ
正常な社会へと向っていた筈だった。