「MAGIC1




 一年後、

一通の報に総大主教は眉を潜めた。
「カイザーが病気?しかも原因が分からない?」
 昼下がりの午後、テラスで報告を受けたグランビジョップ
は不機嫌そうに問いただす。
「これは確かな情報にございます。あれが報告してきました
ので」
 配下の地球教徒の言葉
グランビジョップは更に不機嫌になった。
「膠原病の一種らしいのですが、重要な事は皇帝が生きる
気力を無くしているため病が完治しないとの事です」
「生きる気力?」
「ヤンウェンリーです、彼に一度も勝つこと無く終わってし
まった事、ヤンウェンリーを謀殺しようとする地球教徒から
守れなかった自責の念が強すぎると申していました」
 総大主教より一回りも上の教徒、数歳下の教徒が口を揃
えて進言する。
「ヤンウェンリーヤンウェンリー、ヤンウェンリー」
 総大主教は忌々しげに繰返す。
「そんなに奴が偉いものかっ何故皇帝は死んだ奴に未練を残
す?その屍を踏み台にすればいいものを」
「無理もありません」
 総大主教よりも若干年下の教徒が諌める。
「それだけ影響力がありました。無理もありません」
「目下の問題は皇帝ですな。もう一人の被保護者はがんばっ
ているようですが」
 目を細め一回り上の教徒が口にする。
「始めはあちらの被保護者の方を心配したのですが、彼はが
んばっていますよ、悲しむ暇も無いくらいに」
「分かっている」
 総大主教はふてくされて目の前の飲み物を一気飲みした。
「だがもう一人の方は駄目ですね、以外に弱かった、
総大主教の教えよりも絶望と悲嘆に覆われている」
 的確な指摘に総大主教はため息をついた。
「で?あれは私に何を望んでいるんだ」
「せめて夢で会いたいと皇帝は切望しているそうです、では
夢で会わせてやるのが人情でしょう」
「私が彼に?会ってどうする」
「慰めて勇気付けてやればいいのです」
「それで何になるのだ?所詮夢と思うだろうに」
「それくらい切羽つまっているということです、近いうちに
皇帝は死ぬでしょう。彼の報にはそう記されている」
「・・・分かった、で段取りは?」
「彼が仕組んでおります、何の弊害も無く皇帝の寝室までご
案内すると申しております」
「パウルの奴、手に負えないからといってこちらに押し付け
てきたな」
 総大主教らしからぬ子供じみた言葉に臣下の地球教徒は笑
いを押し殺した。
「総大主教ならば死に掛けた皇帝を再生させることが出来る
でしょう。何せ総大主教は皇帝の保護者なのですから」