「MAGIC5」



どれ位、何度しただろうか?
 初めてにしては激しすぎる行為の後、ラインハルトは疲れ
て眠ってしまった。
ヤンは痛む腰を叱咤してベットから起き上がる。
ケーブを取ろうとして、カーテンの陰にいる人物に気が付
いた。
「何時からそこにいたの?」
「3度目あたりからです、お二人とも夢中で気が付きません
でした」
辛辣な言葉にヤンが苦笑を返す。
「それは失礼、では用は済んだ、後始末を頼むよ」
「心得ております、総大主教」
 ヤンに向かいうやうやしく頭を垂れる義眼の軍務尚書、
 オーベルシュタインはベットに目をやると小さく瞳を光ら
せた。
「皇帝もこれで生きる希望が湧いてくるでしょう」
「一夜の夢なのに?」
「生きていれば又夢が見れるかもしれないという希望です」
 オーベルシュタインは寝入った皇帝を清め衣服を整える。
 ヤンは横の椅子に腰掛けてその様子を見学していた。
「それにしてもグランビジョップの手腕は完璧でした」
「嫌味かい?パウル」
「賞賛しているのです、地球総大司教の名に恥じず見事帝国
と同盟とフェザーンを浄化いたしました」
「13年もかかったけどね」
 ヤンは苦笑しながらパウルの用意した紅茶に手を付ける。
「美味しい、君も私の好みを覚えていてくれたんだ」
「当然です、マインビジョップ、私が御使えするのはあなた
一人のみ」
 ヤンはオーベルシュタインの瞳の意味を無視して皇帝に視線を向けた。
「彼は?仕えがいのある上司だろう」
「ですが私が忠誠を誓うのはヤンウェンリー、あなたのみ」
 慇懃無礼と紙一重の恭しい態度にヤンは今度こそ本当の微
笑を浮かべた。
「感謝しているよ、パウル フォン オーベルシュタイン」
「もったいないお言葉です」
 と言いながら軍務尚書は乱れたベットを直している。
「これからもラインハルトを支えてやってくれ、彼が道を誤らないように」
「ヤン閣下はいかがされるのですか?これから」
「私はもう十分に働いたからね、引退して本来の仕事に徹するよ」
「本来の仕事とは?」
「神に祈りを捧げることさ。私の本職は司祭なんだから」
 魔術師は瞳を悪戯に輝かせる。
「祈り生きていく、ああ、なんて幸せなんだろう」
「祈りなんて社会では役に立たない代物ですからな、つまり
惰眠を貪ると?」
 ヤンは顔を顰めた。
「辛辣な嫌味だね、パウル、君だって一応地球教徒じゃない
か、神聖な祈りを侮蔑するんじゃない」
 これっぽっちもそう思っていない顔でヤンは嗜めた。
「私は地球教に殉じているのではありません、ヤンウェンリ
ー総大主教に忠誠を誓っているのです」
 オーベルシュタインの義眼は鋭く閃光した。
「13年前、あなたが総大主教になった時から私はあなたの僕です」
「そう、あれが始まりだったね」
 ヤンは遠くを見詰めた。
 その瞳は軍務尚書も皇帝も映っていない。
 過ぎ去りし過去が眼前に広がっていた。