「MAGIC7」


 


 13年前、時代は混沌としていた。
 帝国は貴族の専制政治で腐敗が蔓延している。
 同盟は民主主義を忘れ利己主義の政治家の道具と化してい
る。
 フェザーンは拝金主義に陥り本来の姿を失っている。
 そして地球は、宗教本来の目的を忘れ暗躍の舞台となって
いた。
 13年前、先代の総大主教が死んだ。
 跡取りに選ばれたのはまだ若いヤンウェンリー司祭。
 当然内紛が起こった。
 前総大主教の側近が勝手に新総大主教を名乗りフェザーン
と帝国、そして同盟に介入する。
各国を思いのままに操り地球が権力を取り戻すため。
若くして最高の地位についたヤンは決意するしかなかった。
古い体質に固執する旧地球教と帝国同盟、フェザーンをド
ラスティックに改革する
それが新しいヤン率いる地球教の使命なのだから。

地球教、人類の歴史の影に存在する最強の権力。
その影響力はフェザーンのみでは無い、
どの国家の最高権力者も実は地球教によって選ばれる。
地球教の本来の存在意義は人類を正しく導くことであっ
た。
自己の利益を追求せず、世界のために指導者に力を貸し平
和を継続させる機関。
宗教と名しているが前身は滅亡した国連であり一国の利益
でなく世界的な視野で統治する団体の筈だった。
500年前、帝国に現れたルドルフ フォン ゴールデン
バウムも地球教の後押しによって生まれた。
これが最初の謝りであった。
 ルドルフは権力を手に入れるとそれまで身を包んでいた改革者の古着を脱ぎ捨てて独裁者へと変貌した。
時の地球総大主教は人選を誤ったのだ。
 ルドルフは世襲制を定め、その後地球教の影響力は衰えて
いった。
 では同盟は?
 何人も、何十人もの最高評議会議長が、首脳が、委員会長
が地球教の後押しで選ばれる。
 時には名君を、時には凡君を総大主教は選択したが一応は
国家として機能していた。
 しかし、今期選ばれたヨブトリューニヒトは最悪だ。
 前総大主教が選択したこの俳優上がりの男は同盟に致命的
な傷を負わせかねない野心家であった。
 フェザーンの自治領主も同じだ。
 前総大主教は己が凡人であるため愚才しか選べなかった。
 腐敗しているのは帝国、同盟、フェザーンだけでは無い。
 選択し影ながら導かなければいけない地球教こそ退廃に壊
れかけていたのだ。
 ヤンは地球総大主教に就任するとすぐに人材を探すため同
盟へと向った。
 まだ20歳、若すぎる総大主教には敵が多い、
 前大主教の側近は自分達こそ正当な地球教だと主張し権力
を握りヤンの暗殺を企んでいる。
 彼は地球から逃れるように、半ば亡命の形で同盟の土を
踏んだ。
 かの地でヤンはまず身分を隠し軍隊に入る。
統合作戦本部記録統計室という閑職に所属し、同盟の内情
を見て回った。
 腐敗が思ったよりも進行している。
 人々は民主主義の原則を忘れ快楽主義に陥っている。
 早く処置しなければならない。
 トリューニヒト後の人材を見つけなければ。
 ヤンが同盟に潜入したのは新たな指導者を見つけるためで
あった。
 しかしこの国にそれだけの器量は残っていなかった。
 そのうちエルファシルの幕僚に選ばれ民間人救出に助力し
たことから軍部に目をつけられる。
 これはヤンにとって災難であったが、地位が上がった事に
でより内情が見える結果となる。
 ヤンは軍隊で惰眠を貪りながら探した。
 トリューニヒトに代わる新たな指導者を。
 7年が過ぎた。
ヤンは現在いる人材から指導者を探し出すのを諦めた。
そして新たな人材を育成するという方法を選ぶ。
ユリアンミンツ。
頭の良い素直な性格の亜麻色の髪を持つ少年。
まだ権力と金に汚れていない子供。
彼に民主主義の理念を教え、指導者として育てていく。
本人には気付かれない様に、
ヤンは語りかける。
彼に考えさせる。
同盟とは何か?
民主主義とは?
 国家とは?
 ユリアンは利発な子供だった。
ヤンの教えを吸収し成長していく。
それから2年が過ぎた。
29歳になった時、アスターテ会戦が起こる。
ヤンは幕僚として出陣し、そこで運命の出会いを果たした。
 その時の事をヤンは思い出す度運命という言葉を使った。
あの時、あの場所で彼を見つけ出した僥倖は神の定めた運
命なのだと評した。
 総大主教でありながら神を信じていない、そのヤンですら
この出会いを奇跡だと断言した。

 ラインハルト フォン ローエングラム。

 戦ってみてすぐにヤンは気が付いた。
非凡な才能。
天性の軍才。
 敵側にいても感じるカリスマ性。

ラインハルトと対戦してヤンは驚喜した。
見つけたのだ。
この乱世を正す事の出来る逸材を。