「MAGIC8」


ヤンは早急にラインハルトのデーターを集める。
知れば知るほどラインハルトにのめりこむ。
彼の出自、育ち、環境は完璧だ。
貴族の腐敗に汚れていない、帝国の制度に警鐘を鳴らす存
在。
ラインハルトは数年のうちにゴールデンバウム王朝を廃し己が皇帝になるだけの力量を備えている。
ヤンの鑑定眼に間違いは無い。
当時、ヤンは帝国を見捨て、同盟で指導者を選び帝国を滅
亡させる計画を立てていた。
不本意だが人材のいない以上、自分が同盟軍のトップに立
ち帝国を滅ぼす。
二国が無くなればフェザーンの暗躍も意味を成さなくな
る。
そして同盟と帝国は併合された所で自分は不慮の死を遂げ
る。
後はヤンの意志を継いでユリアンが指導者となり正しい民
主主義へと導くだろう。
だが計画はラインハルトの出現により変更を余儀なくされ
る。
彼は天才だ。
ルドルフ以来のカリスマ
彼に同盟と帝国とフェザーンを改革してもらおう。
彼にはそれだけの才能と野望がある。
しかし君主主義一本になるとルドルフに二の舞になる危険
性がある。
500年前の総大主教がルドルフを選んだのは間違いでは
無かった。
間違いは彼が全宇宙唯一の国家の最高権力者になってしま
ったこと。
彼が権力を握るのを遮る敵がいなかった事だ。
呆気なく全てを手に入れたルドルフは慢心し己を見誤った。
もしルドルフに尊敬出来る宿敵がいたら歴史は変わってい
ただろう。
どうしても勝てない相手がいることを知っていたら奢らず
独裁者にならなかっただろう。
ルドルフが権力者になった時、対抗する民主主義国家が存
在していたらゴールデンバウム王朝は500年も続かなかっただろう。
 唯一の独裁国家となってしまったため、その後民主主義の
種が撒かれ芽を出し育ち自由惑星同盟として成長するまで
幾多の年月を費やしたのだ。
ラインハルトをルドルフにしてはいけない。
しかし彼には帝国と同盟、フェザーンを改革してもらわな
ければならない。
そして、腐敗にまみれた旧地球教も
「やれやれ、ユリアンだけでも大変なのに、もう一人導かなきゃいけないのか」
 ヤンはぼやきながらも帝国に潜伏している地球教徒、自分の部下に連絡を取った。
「ラインハルト フォン ローエングラムの幕僚となり彼を支えろ、野望に手を貸し覇者への道を整えろ」
「御意、マインビジョップ」
 当時統帥本部情報処理課にいたパウルフォンオーベルシュタインは恭しくその命令に従った。
 オーベルシュタインは自分の進退を巧妙に利用しラインハルトに近づく。
 本来の目的を誰にも気付かれぬよう策略をめぐらせ幕僚の中に潜り込む。
 オーベルシュタインの任務はラインハルトを皇帝にすることでは無い。
 全宇宙の改革者にすることだ。
 その時彼が身を誤ることの無いよう監視する。
 オーベルシュタインが私欲無く、皇帝の勘気をも恐れず
意見を述べたのは彼が地球教徒だったからだ。
 最終目的が他の幕僚と大きく違っていたため皇帝に述べる意見も代わってくる。
 他の幕僚や皇帝自身からも疎まれたがオーベルシュタインは一向に構わなかった。
 
 オーベルシュタインから逐一報告を受けながらヤンは同盟で策を練った。
 帝国は勝たねばならない。
 しかし勝ちすぎてはいけない。
 一方的な勝利は慢心を引き起こす。
「私は本来影の存在でなんだけどなぁ」
 ヤンはぼやくが今の同盟にラインハルトと対抗出来る人材がいないのだから仕方が無い。
 最初の目的でヤンは一気に同盟軍のトップに上りつめ帝国を滅亡させる予定であったが小さい修正を加える。
 消極的に、だが同盟が壊滅することの無いように力を貸すことでラインハルトを教育していく。

 幾度かの戦争が起きた。
どれも帝国の圧勝のはずであったがたった一人の人物が完
全勝利を阻む。
ヤンウェンリー
 稀代の智将。戦争の魔術師、同盟の英雄、
 しかし彼はその名声を利用して軍部を手に入れようとしな
かった。
地位を利用して政治家に転じようとしなかった。
あくまでも控えめに、帝国軍の勝利を阻む、
絶対の勝利の場でも奇策を用いて帝国の先行を許さない。
帝国が、ラインハルトがヤンに注目し焦点を置くのは当然
の結果であった。
幾多の戦争が終わった。
同盟は死への行進を続けている。
もし、今の段階で政府が自浄作用を起こし本来の民主主義
へ戻っていたらヤンは計画を中止するつもりであった。
本来自分は同盟にも帝国にも直接関わってはいけない立場
である。
 当事者が自己の力で改善出来るならそれが一番望ましい。
しかし同盟は愚行を冒し続けた。
ヤンがイゼルローンを占領したことで図に乗り帝国へ大侵
攻をかける。
この時ばかりはヤンも反対の意思表示をしたが無視された。
アムリッツァは同盟の歴史的大敗北となる。
 その後、ラインハルトの画策で起こるクーデターでも同
盟の自浄効果は発揮されなかった。
同盟は自ら死地へ赴こうとしている。
それはヤンの想像通りであった。