「元帥閣下のボディガード1」



 ヤンウェンリー
 同盟一の智将。名将。
 ミラクルヤン、ヤンザマジシャンと呼ばれる彼は自由惑星同盟で筆頭の重要人物である。
 同盟軍は彼の才略によってなんとか生きながらえている状態であるから当然テロリストの標的にもなりやすい。
 ヤン自身が望むとも望まぬとも、彼は今帝国のラインハルト フォン ローエングラムと並ぶ影響力を世間に与える実質上のトップなのだ。
 当然ヤンには護衛がつくのだが、困ったことにヤンウェンリーは自分の立場、地位を理解しておらず護衛を最低しか配備していなかった。
 否、正確に言うと理解していたのだろうがあえて護衛を付けたがらなかった。
 理由は簡単。
 うっとおしいからである。
「人間駄目な時はどうあがいても駄目さ」
 宗教者じみた言い訳をする智将だが彼は無神論者だ。
 単に護衛という名のプライバシーの侵害に反抗したに過ぎない。
 否、もっと正確に言うと護衛をぞろぞろ連れていると昼寝も出来ない、さぼれないというのが一番の理由らしい。
 ここは同盟領イゼルローン要塞。
 最高責任者であるヤンに危害を加えようとする愚か者はいない。
 しかし絶対とは言い切れない。
 護衛を頑なに拒否するヤンの意見を尊重しつつ、彼を守る事、それが大切だ。
 幸いにもヤンの部下、ローゼンリッター小隊は白兵戦のプロであり護衛に最適であった。
 彼等ならヤンに知られる事無く完璧に守り抜ける。
 今日も明日も明後日も、最高司令官のために日夜護衛を続けるのであった。

 その日、ヤンウェンリーは少々疲れていた。
 キャゼルヌ先輩から慣れぬ(永遠に慣れない)決裁書類の束を突きつけられ疲労しきっていた。
 今日に限ってユリアンはフライングボールの練習で出かけている。
 適当にレトルトで夕食を済ませると紅茶少量のブランデーを飲んだがあまり美味しくない。
 少量でもやはりヤンの入れた紅茶はユリアンに叶うわけも無く、はっきりと味で差がついている。
 仕方なく紅茶無しのブランデーを数杯飲んだ。
 酒が回ってくると気持ちも好転してくる。
「今日はもうシャワーを浴びて寝よう」
 そう決めるとヤンは軍服を脱ぎ捨ててシャワールームに入った。
 気持ち良い水滴が降り注ぐ。
 ユリアンに見られたら怒られそうなくらい雑に体を洗った時、ふいにヤンは自分の変化に気が付いた。
「参ったな。飲みすぎたか?」
 ヤンの下肢は密かに反応していた。
 酒の飲みすぎだろうか。
 それとも疲れのためか。
 あまりにも疲労が激しいと男は反応しやすいと聞く。
 それともユリアンがいないという開放感のせいか?
 別にうとましがっている訳では無いがユリアンが同居していた間、自慰はご無沙汰している。
 青少年の教育上よくないからだ。
 といっても非常に淡白なヤンは不自由には思っていなかった。
 学生時代から学友と共同部屋だったからしなくても支障は無い。
 くどいようだがヤンは淡白であったため一ヶ月に一度、下手すると忘れて半年に一度などざらであった。
 もちろんれっきとした成人男子なのだから出すものは出さねばならない。
 しかしヤンの場合寝ているうちに夢精をしてそれで終わり。
 別に具体的ないやらしい夢を見ている訳では無い。
 なんとなくもやもやしているうちに夢精。
 30歳男としてそれはいかがなものかっという突っ込みは置いておいてヤンは今までそれで支障は無かった。
 だがヤンとてやはり男
 時々、たまにごくまれにむらむらする時はある。
 今がまさにそう。
「このままじゃ眠れないよな」
 ヤンはため息を付くと久しぶりに自分の下半身へと手を伸ばした。