「さよなら同盟8」


私の幕僚ならそう言うでしょうね。チャシャ猫のごとき笑みを浮かべる。
「政府は今回の発表をこう報じるでしょう、ヤンウェンリーは軍務の重圧から心神喪失で病気療養に入ると」
「病気療養?」
「亡命する前に捕らえようとするでしょうが無駄です。ここはイゼルローンでありハイネセンから社会秩序維持局の憲兵隊が到着する前に私は帝国についていますよ」
ヤンは捕らえられスタジオの隅に転がる工作員に目を向ける。
「第一陣はもう失敗していますしね」
「では、ヤン艦隊が亡命されるということですか」
「いえ、私一人です」
予想しなかった一言に場が固まる。
「帝国では裁判を受けるのは目に見えています。投獄されるのが分かっている場所へ部下を連れて行けませんよ」
「ですが・・・残された者はどうなるのですか?」
「どうにもなりません。部下の失敗は上司の責任ですが上官の失策で部下が処罰されません。それが民主主義の軍隊でしょう」
わざわざ放送を通じて明言する。
「私の亡命で私の部下や家族が国家権力から刑罰を受けることは無いと信じます」
「では誰が責任を取るのですか?」
「決まっているじゃないですか。私の上司といえば国家元首ですよ」
今度こそヤンは会心の笑みを浮かべた。
「トットリューニヒト元首とヤン提督は旧知の仲では無いのですか?」
その瞬間、世にもおぞましい冗談を聞いたとばかりにヤンの顔が歪む。
「誰がそんな事言ったんですか?」
「政府がっトリューニヒト元首がよく談話で言っておりますが・・・」
ヤンは盛大に顔を顰めるとインタビュアーに囁いた。
「実はここだけの話、オフレコなんですけどね」
いたずらする悪ガキの顔でヤンはのたまった。
「私はあの扇動政治家が大嫌いなんだ」
小声であったがマイクはちゃんと集音していた。


最終視聴率は98%を超えた。
過去類を見ないこの数字は今後も塗り替えられる事は無い。
放送終了と同時に放送局の回線はパンクした。
「ヤン提督の言った事は事実か?」
「この番組はやらせじゃないのか?真実なのか?」
「提督は本当に亡命してしまうのか?」
もちろんイゼルローン駐留軍の回線もパニック状態だ。
「提督、いかないでください」
「自分が盾になってまでして我々同盟市民を守ろうとするだなんて軍人の鑑だ」
「帝国に亡命したら殺されます、やめてください」
「あなたがいなくなったら我々はどうしたらいいんですか?」
ハイネセンも同様だった。
否、一番酷いかもしれない。
「トリューニヒトを出せっ卑怯者を」
「扇動政治家の大嘘付きめっ表に出て弁明しろっ」
「今まで言ってきた事はでたらめだったのか?反論してみせろっ」
「ヤン提督の放送が嘘ならば公の場で答弁しろっ」
放送終了と同時に怒りと疑惑に満ちた人々が統合作戦本部の前に集まり始める。
10人20人だったそれは一時間も経たないうちに1000人を超えるデモ隊となっていた。