「さよなら同盟第二部2」


二時間後、静まり返った部屋の中ラインハルトは屈辱に身を震わせていた。
「やられた。ヤンウェンリー」
まさかヤンがこの様なペテンを仕掛けてくるとは思いもよらなかった。
「これで同盟侵攻の正当な理由が無くなってしまった訳ですね」
キルヒアイスが淡々と事実を述べる。
「いや、同盟が皇帝を返還しない可能性もあるぞ」
ビッテンフェルトの言葉にオーベルシュタインは首を振った。
「返還せずとも同盟は一市民の亡命として扱う以外無いでしょうな。ここまでヤンウェンリーに断言されては他に方法が無い」
 義眼の軍務尚書は心底ヤンウェンリーを見くびっていた自分に後悔していた。
どれ程奇策を用いようとも所詮軍人。
政局に影響を与えない小物と考えていた。
軍才はラインハルト公に匹敵しようとも政治の世界に出てこない限りは我等の敵では無い。
ヤンが軍人に納まっているのは政治力が無いからだと勝手に納得していたのだ。
歴史を変える力の無い単なる軍人、小手先だけ器用な男だとどうして思いこんでいたのか。
オーベルシュタインの気持は幕僚全員の感想であった。
「今まで軍人に甘んじてきたのは芝居だったのか」
ロイエンタールは憎々しげに呟く。
「救国軍事会議のクーデターでさえ奴は政権を握ろうとはしなかった。あの時こそ実権を握るチャンスだったのに」
「それを今更何故」
「帝国に亡命だと、そんな事が許される訳が無いっ」
動揺する幕僚に向ってラインハルトは手を上げた。
「静まれ、とにかくヤンウェンリーは今単身こちらへ向っている。我々のなすべき事は一つだ」
幕僚の視線が集中する。
「ヤンウェンリーを保護する。帝国に到着する前に事故があったらいらぬ疑惑をもたれる」
もしヤンが投降中に暗殺にあったら帝国は非難される。
亡命してきたヤンを抹殺したのだなどと言われて将来のローエングラム王朝に傷が付く。
「ロイエンタール上級大将に命ずる。ヤンウェンリーを無事保護し、予の前に連れて参れ」
苦虫を潰した様な顔をしたが拒否は出来ない。
「勅命承りました」
ロイエンタールはそれだけ言うとトリスタンで宇宙へと向った。