「さよなら同盟第二部3」


7日が経った。
帝国も、同盟政府からも何の公式発表も出ていない。
互いに動きを探り合っている状態だ。
同盟政府としては亡命したヤンが捕らえられ処罰を受けるのを待っていた。
そうすれば戦争続行の言い訳が立つ。
「命をかけて諌めに行ったヤン提督を卑怯にも帝国は処罰したのです。市民よ、この蛮行を許していいのでしょうか。立ち上がれ同盟市民、悪辣なローエングラム フォン ラインハルトを倒し真の平和を同盟の手で築くのです」
トリューニヒトの手には原稿が用意されている。
後は帝国からの発表を待つばかりだ。
「これで起死回生出来る。愚か者のテレビ出演で私のイメージは悪くなったがそれすらも利用してみせる」
ヤンの放送は政権を危うくしているが、反対に考えれば亡命で厄介者を処分出来たということだ。
今、自分を非難している民衆など言葉一つでどうにでも扇動出来る。
トリューニヒトは自分の弁論に絶対の自信を持っていた。


帝国もヤンを保護するまでは声明を避けた。
ヤンウェンリーという男は何を企んでいるか分からない。
今回も寝耳に水の爆弾放送を仕掛けてきた。
亡命と言ってもどんなトリックを用意しているか見定めないと安易に発表出来なかった。


ヤンがロイエンタール率いるトリスタンと合流したのは8月23日、15時23分。
本来ならば半日早く回収出来る筈であったが手間取ったのはヤンの乗る小型機が順路の計算ミスをしたためである。
幸い誤差で済んだため、僅かに順路を外れて漂流しているところをトリスタンに拾われた。
空白の半日は帝国にとっても同盟にとっても胃を痛ませる時間であったことは言うまでも無い。
このままヤンが宇宙の漂流者になってしまったらどうなるのか。
帝国は同盟の陰謀だと主張するだろうし同盟は帝国によって暗殺されたと発表するだろう。
そうした心配を他所にヤンは小型機の中で惰眠をむさぼっていた。
トリスタンに回収されて出てきたヤンは肩を回しながら
「やっぱり小型機の中は寝にくいなぁ、首が凝って仕方ないよ」と言ったとか言わないとか。
とにかく無事保護されたのだった。