「女優退場」


銀河帝国ゴールデンバウム王朝第三十六代皇帝 フリードリヒ四世
栄華を極めたこの王朝も彼が29歳で即位した時、すでに衰退の兆しを見せていた。
国政に興味を示さぬフリードリヒ四世の寵愛を受けるグリューネワルド伯爵夫人 それは今を輝く帝国元帥 ローエングラム伯ラインハルトの実の姉、アンネローゼであることは周知の事実であり、いたるところから羨望と嫉妬、殺意を抱かれていた。

 



月と星の輝く晩であった。
ラインハルト伯ローエングラムはバルコニーから副心の友キルヒアイスと夜空を見上げていた。
「昨日夢を見た」
ラインハルトが呟いた。
「子供の頃の夢だ。俺とお前、それに姉上の三人で遊んでいた頃の・・・」
今となっては遠い過去の出来事、
無邪気に遊んでいた三人はもういない
姉は皇帝に略奪され、ラインハルトとキルヒアイスはアンネローゼを取り戻すため、宇宙の簒奪を近い帝国軍に身を置いている。
あの時の何も知らなかった子供はどこにいってしまったのだろう。
「私は時々思うことがあります。どちらが現実だろうかと・・・」
キルヒアイスはそう答えた。
「「今と昔と・・・」
「今と昔?」
首をかしげるラインハルトにキルヒアイスは言葉を続ける。
「はい、ひょっとしたら今、自分は夢を見ているのではないか?夢の長い回廊の中をさまよっているのではないか・・・
そう思うときがあるのです」
キルヒアイスの言葉はおっとりとして穏やかだった。
「ある日夢が覚めてあの日に戻る、子供の頃のラインハルト様、そしてアンネローゼ様がいる」
キルヒアイスは夜空を見上げながら言った。
「そして私はアンネローゼ様に言うのです」
少し楽しそうに、気恥ずかしそうにキルヒアイスは言葉を連ねる
「夢を見たんだ、僕たち二人で軍人になって軍艦に乗って宇宙の果てまでいって大活躍したんだよ・・・・と」
遠い少年のまなざしを残しながらキルヒアイスは夜空を見上げた。
「ああ、そうだな、俺もその夢ならよく見る」
ラインハルトは親友の傍らに立ち宇宙を見上げた。
満天の星が輝いている。
「俺も姉上に報告するんだ。 僕たち二人で軍人になって軍艦に乗って宇宙の果てまでいって大活躍したんだよ、そして僕は宇宙の果てでお嫁さんを見つけたんだ・・・と」
どこか青年の恥じらいを残しながら夜空を見上げるラインハルトにキルヒアイスがうなずいた。
「ヤン・・・ウエンリーですね」
「姉上はヤンウエンリーを気に入ってくれるだろうか?夢とはいえそこが気がかりだ」
不安な顔を見せるラインハルトにキルヒアイスは微笑み返す
「アンネローゼ様は優しいお方、たとえお嫁さんが同盟軍でも男性でも気になされないと思います」
「しかし、嫁と小姑は仲が悪いのが通説ではないか」
「お気になさることはありません、お嫁さんとはいえ同盟一の知将、小姑のアンネローゼ様ともすぐに仲良くなれるでしょう」
キルヒアイスの言葉にラインハルトは目を見開いた。
「やはりお前はわかってくれるな、キルヒアイス」
 ラインハルトは立ち上がった。
 その秀麗な美貌は期待で薔薇色に染まり、宇宙の星星を見上げる
「キルヒアイス、俺は宇宙を簒奪出来るか?」
 
「ラインハルト様に出来なくて誰に出来ましょうか」
「キルヒアイスっ俺は姉上を取り戻しっヤンウエンリーを手に入れてみせる、夢を現実のものとしてみせる」
「私も夢実現のためお手伝いします、ラインハルト様っ」
 二人は固く握手を交わすと夜空へと目を向けた。
「待っていてくれ、ヤンウエンリー私の花嫁、もうすぐ迎えに行くから」


 


ラインハルトの熱い呟き、それは当然同盟には届かない
まさか自分が花嫁候補(決定?)にされているとは夢にも思わず、同盟一の知将ヤンウエンリーは今日も執務室で惰眠をむさぼっていた。